微生物学者が乳がんになった時(Ⅲ:がれきの上にこいのぼり その1)

Ⅲ:がれきの上にこいのぼり<2015年12月~2016年12月>その1

ゆずり葉

前回の文章からほぼ一年になります。無事、また新しい年を迎えることができそうです。しかし、こともあろうにソフトバンクがV3を逃しました。一時は日本ハムと11.5ゲーム差もあったのにどうしたことでしょう?

この一年の間に女性の友人一人が子宮がん、二人が乳がん、男性が肺がん、甲状腺がんになりました。海老蔵さんの、奥さんの小林麻央さんや北斗昌さんのおかげで乳がんの検診率が特段に上がったそうです。私ががんだから話しやすくなったのか、がん患者が増えてきたのか、本当に身近にがん患者が多い。大学生の頃、カップラーメンが世に出た頃、食料が少なく化学物質で汚染されていなかった貧しい時代に育った世代は長生きするが、化学物質漬けの我々世代はがんになって早く死ぬと言われていました。まさにその時が到来したような不気味さを感じます。

ところで、アンジェリーナジョリーの夫って、ブラッド・ピット?あの乳房摘出したアンジェリーナジョリーですよね?離婚報道で知りました。リオオリンピックもじっくり見ることができました。今年2月に感染症法の4類、検疫感染症になったジカウイルス感染症は、リオオリンピックの前に大騒ぎしましたが、大きな問題にならずに済んでよかったです。暇に任せてテレビを見られる特権を謳歌しています。

1964年の東京オリンピックの時に我が家にテレビが入りました。私は14歳、中3で、高校受験の時だったので、テレビを見せてもらえず、テレビにかじりついている親の姿を恨めしく思った記憶が鮮明です。2020年には、上の孫は高2、2番目の孫が中3で、前回の東京オリンピックの時の私の年ごろになります。娘が小学生の時にクラスで暗記していた河合酔茗の「ゆずり葉」という詩を思い出します。

我が家のゆずり葉

我が家のゆずり葉

こどもたちよ、これはゆずり葉の木です。
このゆずり葉は 新しい葉ができると 
入れ代わって古い葉が落ちてしまうのです。
こんなに厚い葉 こんなに大きい葉でも 
新しい葉ができると無造作に落ちる
新しい葉にいのちをゆずって ・・・・・・

抗がん剤耐性

立冬です。すでにインフルエンザの流行が始まっているのに、冷凍食品のメンチカツとクリームコロッケによる腸管出血性大腸菌O157の集団感染がおきました。冷凍保存は細菌を休眠状態にするだけで殺菌効果はありません。冷凍食品ですから細菌性食中毒は夏の食中毒、ウイルス性食中毒は冬という季節性から外れます。さらに冷凍保存ですから、発生が全国規模になる可能性があります。今年、1996年の腸管出血性大腸菌O157事件の時に小学1年生でHUS(溶血性尿毒症症候群)になった方が、20年後の今年死亡されたとのニュースが流れました。あの時、産業医大微生物学教室には多くのマスコミが取材に来ていました。あれから様々なことがあり、あっという間の20年と思っていましたが、あの時、生まれた子が成人式を迎えるということなのですね。この間、その方はずっと闘病されていたのだと思うと言葉を失いました。私の2年の闘病なんてわずかな期間です。今回も8歳と5歳の子供さんが重症だそうです。これは子供さんが重症になりやすい感染症なのです。食中毒とはいえ、恐ろしい感染症です。

ところで、冷凍保存のように、私の乳がんも休眠状態かと思っていましたが、薬の効きが悪くなってきたら徐々に大きくなってきているようです。抗菌薬をやめたら菌が増殖を始めるように、抗がん剤がしっかり抑えていただけのようです。そういえば、現在は抗がん剤耐性機構の高名な研究者が、かつて大腸菌のストレプトマイシン耐性機構の研究をされていました。抗がん剤耐性は誘導変異なのでしょうか?自然変異を抗がん剤が選択しているのでしょうか?がん幹細胞というのもあって、このがん幹細胞も耐性を有するとか。ヒトのゲノムサイズはバクテリアの約1000倍ですから、耐性機構も複雑ですが、基本的には抗がん剤耐性と抗菌薬耐性との間に相通じるものがあると思います。

余談ですが、炭疽菌などバシラス属の芽胞(不活性型)は栄養型菌(活性型)に比べ抵抗性がとても強いので、間歇滅菌という方法で完全殺滅を目指します。滅菌処理後生き残った芽胞をしばらく放置して栄養型菌に変え、再度滅菌処理し、さらに残存した芽胞を繰り返し処理するというやり方で、抗がん剤でも似たような方法はないのかな?と思っていましたら、前立腺がんでホルモン療法が効かなくなるとしばらく休憩して、また投薬するという間歇療法が試されていて有効だという報告があるようです。乳がんにはまだそのような検証されていないのか、または有効でないのかもしれません。

タキサン系抗がん剤はイチイ(Taxus、一位)の木の成分

今お世話になっているパクリタキセルはタキサン系抗がん剤です。G2/M期での細胞増殖抑制作用が抗がん作用です。

タキサンとはイチイの木の学名Taxus由来で、日本名のイチイとは笏の材料としたところから位階の一位にちなむそうです。
別名アララギ。アララギ派とどんな関係があるんですかね?
イチイの木の樹皮に生息する内生菌(真菌Glomerella cingulata(子嚢菌類))がタキソール産生遺伝子を有するそうで、生産量を増やすための研究が進んでいるそうです。

昨年12月函館に講義に行きました。タクシーで女子トラピスト修道会に連れて行ってもらったのですが、その時の運転手さんの奥さんは脳腫瘍の手術で入院中ということでした。運転手さんが「これがイチイの木です」と大きな庭木を指して教えてくれました(右図)。防虫作用があるから庭木に使われるということでした。そういえば先日処分場の視察で訪れた愛媛県大洲市の臥龍山荘の床の間の上の飾りに大きな一枚板が使われていました。運転手さんに「この木の成分が抗がん活性を持つのですよ」と言ったら、「煎じて飲ませたら効きますかね?」と聞かれ返答に困りました。

データ

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