アリス四季の集い・春 北九州 開催報告
- 日時 : 2012 年 5 月 12 日 15:00~18:00
- 場所 : 産業医科大学 産業医実務研修センター3 階 会議室
- プログラム :
講演「他の人の『見え方』がわかりますか? 眼科臨床医の立場から~産業医とのよりよい連携について」
むらかみ眼科クリニック 副院長 村上美紀先生(5 回生) - 参加者 : 29 名(うち新たな学生支援事業より学生 20 名)
今回の集いは学内の産業医実務研修センターで開かれ、医学部から参加を希望した 20 名の 1 年 生も加わっての賑やかな会となりました。
冒頭に副会長の小畑泰子先生から開会挨拶があり、その後、進路指導部の一瀬豊日先生による 卒業生の進路状況報告、小畑先生から平成 23 年度活動報告、吉川里江先生から昨年度 3 月に実施 した会員アンケート結果の報告があり、その後に今回の集いのメインである、むらかみ眼科クリニック副院長の村上美紀先生によるご講演「他の人の『見え方』がわかりますか? 眼科臨床医 の立場から~産業医とのよりよい連携について」が行われました。
村上先生は臨床医として眼科診療に携わられる中で、先天的な色覚異常に加え、中途で視野や 視力に異常を来した視覚障害(ロービジョン)の患者さんを数多く診てこられました。その中に はもちろん働いておられる方もいて、障害を抱えながら就業を続けるために眼科医としてどのような支援をされているかについてお話下さいました。
視覚障害の患者さんが持つ、残された視機能を最大限に活用して出来るだけ快適な生活を送れるように支援する眼科医療や福祉のことを「ロービジョンケア」と言います(余談ですが、本年 度からロービジョンケアが診療報酬化されたことから、眼科領域でもホットな分野のようです)。 さて、村上先生は、患者さんが仕事を持っている場合、最適なロービジョンケアを行っていく上 で眼科医と産業医との連携は不可欠なものと強調されます。例えば、その人が夜勤のある人か、通勤手段は何か、運転や危険作業を伴う職種か、どの程度の視機能が要求されるかといった具体的な情報は眼科医にとって大変重要な情報ですし、逆に産業医は視野欠損の程度など、通常の健 診や本人との面談だけでは得られにくい専門的で正確な情報を眼科医からもらうことで、就業適 性の正しい判断や、具体的な配慮が可能となります。これらの情報交換がうまくいかないと、業 務中に思わぬ災害につながることや、解雇という不幸な結果につながることもあります。眼科医 と産業医が患者さんである労働者を中心に積極的に連携をとることがとても大切であることが改めて認識されました。
しかし一方で、実際には産業医や、更には本人すらこのような問題が生じていることに気づいていないことも多いと言われます。中途視覚障害の主なものに、緑内障などによる視野狭窄や加 齢黄斑変性症などによる中心暗点などがありますが、これらの視野異常は職域で行う視力検査で は発見出来ません。「よくつまづく」といった訴えがあるくらいで本人にも視野欠損の自覚はなく、 非常に進行した状態で初めて発見されることも多いとのことでした。また、我々が子供のころには一度は学校で受けていた色覚検査も 2003 年以降は校長裁量となり、学校での一律実施が廃止されたそうです。今春はちょうど廃止以降の、”自分に色覚異常があることを知らない”世代が、19 歳で就職する年となっています。産業医は、これらの視野、色覚に異常を抱えている労働者の問 題については常に、意識として持っておく必要があると感じました。
今回は 1 年生の医学部学生も参加していたことから、実際に強度近視、視野欠損、色覚異常が あった場合にどのように見えるのかを、スライドで示して頂いたり、視野狭窄に見立てて、紙に 開けられた小さな穴から向こう側の対象物がどのように見えるか体験してみたりと色々な工夫を 交えてお話があったため、わかりやすくロービジョンについて学ぶことが出来ました。
その他、障害者手帳申請にまつわる話や、お勧めの眼科として視能訓練士のいる眼科医療機関 などの具体的な情報をご提供頂き、明日からの産業医活動にとっても大変有意義なお話をうかがうことができました。