微生物学者が乳がんになった時(Ⅲ:がれきの上にこいのぼり その5)

Ⅲ:がれきの上にこいのぼり<2015年12月~2016年12月>その5

「見上げれば がれきの上に こいのぼり」

2012年石巻

中学生の孫が宿題で、この句の下の句を悩んでいました。震災の後、2012年1月宮城県石巻にがれきやヘドロのガス発生、感染リスク評価のために廃棄物層、土壌、水などの採取に行ったとき、北九州に運ばれる予定のがれきの上にこいのぼりが翻っていたのを思い出しました(下図)、なぜこいのぼり?と違和感を覚えたのです。
鯉が元気に泳いでいたら、ガス抜き管(写真には7本)の中の硫化水素ガスなどの有毒ガスは風に吹き飛ばされて、中にこもっていないだろうからリスクは低いと考えられるが、それでもガス抜き管の風下に立たない、などの判断の目安であることは間違いないのですが・・・。泳いでなかったら、ガスが籠っているかもしれないから危ないのです。

このガスはがれきの中の細菌の代謝によって作られます。これは全国あちこちの処分場や不法投棄現場の細菌叢を評価してきた経験から得た知識です。腸内細菌叢のガスと同じです。

抗がん剤で腸管の蠕動運動が麻痺すると細菌によるガスがたまります。食べたものによってガスが臭かったり、においがなかったりします。体内環境も自然環境も細菌が制御しています。かつて古細菌の先生の研究に協力した時、私の口からメタンガスが計測されたことがあります。欧米の肉食系のヒトに多いそうですが、口から火を吐いている大道芸人のことを思い出して、ちょっとショックでした。ピロリ菌の尿素呼気試験で、口から飲んだ尿素がピロリ菌によって分解されて炭酸ガスになって口から出てくることを考えれば特別なことではないのですが。

この中学生が作った句に世界中からいろんな言葉が寄せられているそうです。
私はすぐに「泳ぐ姿に 復興の祈り」という言葉をつなげたいと思いました。

ここで初めてがれきの上にこいのぼりを立てておられた意味が、未来に向かって、元気に生きていこう、というような意味もあったのかな?と思いました。それなのに、これを読んだ友人から「メタンガス吐く われぞ悲しき」と送ってきました。なんという!

福島からの転校生がいじめられているとの報道に日本はどうなっているのか!と憤りを感じました。しかし、その中学生の言葉に感動しました。あの時たくさん死んだから、自分は死なない!と。頑張れ!!!

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