微生物学者が乳がんになった時(Ⅲ:がれきの上にこいのぼり その12)

Ⅲ:がれきの上にこいのぼり<2015年12月~2016年12月>その12

がんは治る時代へ

2017年1月15日NHKシンポジウム「がんは治る時代へ~先端医療最前線~」がありました。最近はこういう番組が多いような気がするのは、気のせいでしょうか?社会のニーズが高いということでしょうか。冒頭、有明病院の門田先生が、がんはすでに治る時代になっている、ステージIの場合5年生存率は90%と言われました。やっぱり早期診断、早期発見が大事ですね。遺伝子検査に基づく耐性を乗り越えた抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害薬、ips細胞の応用、放射線治療など、本当にがんは治る病気になってきていると感動しました。これらが保険適用になって、我々庶民が利用可能になるのはいつ頃なのでしょうか。がん研究はすごい勢いで進んでいますから、治療途中でいいものが出てきますと言ってくださったのは単なる気休めの慰めではなかったのですね。

しかし、問題はお金だけでなく、副作用なのです。副作用のコントロールの話はなかったのですが、それらも同時に進んでいるということなのでしょうか。患者はそこで苦しんでいる。この番組の前に、認知症対策のイギリスでの現状報告の番組があっていましたが、リンクワーカーの方が患者の自立を支援し、医者との間もつないでいました。日本にはそういうシステムがないそうです。日本では昔の保健婦さんがそういう立場だったんでしょうか。がんについてもそういう医者と患者をつなぐ方が欲しいと思いました。

がん対策のハードとソフトの両面のシステム作り、これに産業医大卒業の皆さんの貢献を期待したいです。

死について

分子生物学者によると、人間の身体は分子レベルで見ると1年前と100%違ったものになっているそうです。もしそうでなかったら、人間は生きていないそうです。ヒトは一年ごとに死んでいるということ、ならがん細胞はなぜ消えないのかな~と、やっぱりDNAの複製は正確で、がん細胞の変異はきっちり引き継がれていくということかなんでしょうか。でも、前述のように、人間はがんでは死ねない時代になったのでしょうか。

最近、人間の寿命は120歳までとの研究成果が出ていました。寿命を延ばす研究は多いけど、死についての研究は難しいのでしょうね。

私が死について話そうとすると、拒絶反応を示される方が多いです。これは患者の気持ちを孤立に追いやります。主人の病気は胃潰瘍と聞かされていた私は、さすがに様子がおかしいと恩師に相談に部屋に行ったとき、姿勢を正して椅子に座られ、言葉を絞り出すように「予断を許さない状態です。でも余命何日と言われながら長く生きている人がいる。奇跡を起こしなさい。最後まであきらめるな。人の命は分からない。」と言われました。
この時、死という言葉は1回も使われなかったのですが、初めて主人は死に向かっていると認識し、覚悟しました。

私の病気を知ったある先生が、黙って握手を求められました。なにも言われませんでした。言われたかもしれませんが、言葉は記憶に残りませんでした。ただ、温かい気持ちだけが伝わってきました。その方の人生をかけた温かさでした。それだけでよかった。その方の生きざまと誠意。皆さんががん患者の就労支援するときの参考になればと思います。

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